「自社の場合、実質いくらかかるのか」——助成金の話を聞いても、この疑問が解決しないと稟議が通りません。制度の概要は把握できても、研修費の金額や受講人数によって答えが変わるため、計算に迷う担当者は少なくないでしょう。
この記事では、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)を使ったAI研修の実質負担額を、研修費・人数・研修形式・企業規模の4軸で網羅的に試算します。令和8年4月8日施行の改正内容も反映済みです。手元に研修費の見積もりがある方は、該当する表をそのまま社内資料に使ってください。
制度の基本的な仕組みや申請の流れについては、AI研修の助成金完全ガイド【令和8年4月改正対応】で解説しています。
計算に必要な3つの基本ルール
実質負担額の計算式はシンプルです。使うのは3つの数字だけ。まずここを押さえれば、どんな研修パターンでも自分で計算できるようになります。
ルール① 経費助成:研修費の75%、上限30万円/人
厚労省「人材開発支援助成金」(事業展開等リスキリング支援コース)では、中小企業への経費助成率は75%です。ただし、10〜100時間未満の研修では1人あたり30万円が上限になります。
計算式:
経費助成額 = MIN(研修費 × 75%, 30万円)× 受講人数
たとえば研修費が20万円/人なら「20万円×75%=15万円」が助成されます。40万円/人なら「40万円×75%=30万円」ですが、上限に達するためここで頭打ちとなります。
ルール② 賃金助成:1,000円/時間(Zoomライブのみ)
令和7年4月改正で引き上げられた賃金助成単価は1,000円/時間です(中小企業)。賃金助成はZoomライブ(同時双方向型)などのOFF-JT訓練に付与され、eラーニング(録画視聴型)は対象外となります。
賃金助成額 = 1,000円 × 訓練時間 × 受講人数
※ Zoomライブ(同時双方向型)のみ。eラーニングは0円。
賃金助成はわかりやすい上限がなく、時間数と人数に比例して増えます。11時間の研修に10名参加なら「1,000円×11h×10名=11万円」が別途助成されます。
ルール③ eラーニングは上限が半減(令和8年4月8日改正)
令和8年4月8日施行の改正で、eラーニング(録画型・定額制サービス)の経費助成上限が30万円→15万円/人(中小企業)に引き下げられました。
| 研修形式 | 経費助成上限(中小) | 賃金助成 | 改正の影響 |
|---|---|---|---|
| Zoomライブ(同時双方向型) | 30万円/人 | 1,000円/時間 | 変更なし |
| eラーニング(録画視聴型) | 15万円/人(改正後) | 対象外(0円) | 30万円→15万円に引き下げ |
| 定額制サービス(10時間以上) | 15万円/人(改正後) | 対象外(0円) | 10時間以上の要件が新設 |
この3つのルールを組み合わせると、実質負担額 = 研修費合計 − 経費助成 − 賃金助成で計算できます。以降のセクションでは、この式をさまざまなパターンに適用した試算表を掲載します。
助成金シミュレーションの計算構造
経費助成
MIN(費用×75%, 30万) × 人数
賃金助成(Zoomライブのみ)
1,000円 × 時間 × 人数
研修費別シミュレーション——Zoomライブ・中小企業
「1人あたりの研修費がいくらなら、実質いくらになるか」——この表がわかれば、見積もりを受け取ったときにすぐに判断できます。
前提条件:
- 研修形式:Zoomライブ(同時双方向型)
- 企業区分:中小企業(助成率75%)
- 訓練時間:11時間(賃金助成 = 1,000円×11h = 11,000円/人)
- 受講人数:1名で計算
| 研修費/人 | 経費助成額 | 賃金助成額 | 実質負担額 | 実質負担率 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 7.5万円(75%) | 1.1万円 | 1.4万円 | 14% |
| 15万円 | 11.25万円(75%) | 1.1万円 | 2.65万円 | 18% |
| 20万円 | 15万円(75%) | 1.1万円 | 3.9万円 | 19.5% |
| 30万円 | 22.5万円(75%) | 1.1万円 | 6.4万円 | 21.3% |
| 40万円 | 30万円(上限) | 1.1万円 | 8.9万円 | 22.3% |
| 50万円 | 30万円(上限) | 1.1万円 | 18.9万円 | 37.8% |
| 60万円 | 30万円(上限) | 1.1万円 | 28.9万円 | 48.2% |
| 80万円 | 30万円(上限) | 1.1万円 | 48.9万円 | 61.1% |
| 100万円 | 30万円(上限) | 1.1万円 | 68.9万円 | 68.9% |
この表から読み取れる重要な分岐点は研修費40万円/人です。40万円を超えると経費助成が上限(30万円)に頭打ちとなり、実質負担率が急激に上昇します。研修費が40万円以下に収まるプランを選ぶと、最も効率よく助成金を活用できます。
研修費が10〜20万円の低価格帯では、助成率75%がそのまま効くため実質負担率は14〜20%台になります。ただし、こうした低価格帯の研修はeラーニング(録画型)が多いため、後述するように賃金助成がつかず実質的な削減額は限られる場合があります。
Zoomライブとeラーニングでこれだけ違う
「オンライン研修だから助成額が少ない」と思い込んでいる担当者が多いのですが、これは半分だけ正しい説明です。重要なのは「リアルタイムかどうか」です。
同じ研修費40万円・11時間のコースでも、形式によって助成額は大きく変わります:
| 項目 | Zoomライブ(同時双方向型) | eラーニング(録画視聴型) |
|---|---|---|
| 経費助成上限 | 30万円/人 | 15万円/人(令和8年4月改正後) |
| 賃金助成 | 1,000円×11h = 11,000円/人 | 0円(対象外) |
| 合計助成額(研修費40万円の場合) | 300,000 + 11,000 = 311,000円 | 150,000円 |
| 実質負担額 | 89,000円(22.3%) | 250,000円(62.5%) |
同じ40万円の研修でも、実質負担に約2.8倍の差が生まれます。令和8年4月の改正でeラーニングの上限が30万円から15万円に引き下げられたため、この差はさらに拡大しました。
「動画なら自分のペースで学べるのでは」という理由でeラーニングを検討する企業も多いのですが、研修費が30万円/人を超えるような本格的なAI研修では、Zoomライブを選ぶことが助成額最大化の鍵になります。
研修費を変えた場合の形式別比較
| 研修費/人 | Zoomライブ 実質負担 | eラーニング 実質負担 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 1.4万円(14%) | 2.5万円(25%) | 1.1万円 |
| 20万円 | 3.9万円(19.5%) | 5万円(25%) | 1.1万円 |
| 30万円 | 6.4万円(21.3%) | 7.5万円(25%) | 1.1万円 |
| 40万円 | 8.9万円(22.3%) | 25万円(62.5%) | 16.1万円 |
| 50万円 | 18.9万円(37.8%) | 35万円(70%) | 16.1万円 |
| 60万円 | 28.9万円(48.2%) | 45万円(75%) | 16.1万円 |
研修費が30万円以下の場合は経費助成率が同じ(75%)であるため、差は賃金助成の11,000円のみです。しかし30万円を超えると差が一気に拡大します。これはeラーニングの経費上限(15万円)で助成が打ち止めになるためです。
人数別×研修費別:全シナリオ一覧表
「3名受講させたいが研修費30万円なら合計いくらか」といった多人数×複数費用帯のシミュレーションです。Zoomライブ・中小企業・11時間研修の条件で全パターンを一覧化しました。
研修費20万円/人のケース
| 人数 | 研修費合計 | 経費助成 | 賃金助成 | 実質負担額 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 1名 | 20万円 | 15万円 | 1.1万円 | 3.9万円 | 3.9万円 |
| 3名 | 60万円 | 45万円 | 3.3万円 | 11.7万円 | 3.9万円 |
| 5名 | 100万円 | 75万円 | 5.5万円 | 19.5万円 | 3.9万円 |
| 10名 | 200万円 | 150万円 | 11万円 | 39万円 | 3.9万円 |
| 20名 | 400万円 | 300万円 | 22万円 | 78万円 | 3.9万円 |
| 30名 | 600万円 | 450万円 | 33万円 | 117万円 | 3.9万円 |
研修費30万円/人のケース
| 人数 | 研修費合計 | 経費助成 | 賃金助成 | 実質負担額 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 1名 | 30万円 | 22.5万円 | 1.1万円 | 6.4万円 | 6.4万円 |
| 3名 | 90万円 | 67.5万円 | 3.3万円 | 19.2万円 | 6.4万円 |
| 5名 | 150万円 | 112.5万円 | 5.5万円 | 32万円 | 6.4万円 |
| 10名 | 300万円 | 225万円 | 11万円 | 64万円 | 6.4万円 |
| 20名 | 600万円 | 450万円 | 22万円 | 128万円 | 6.4万円 |
| 30名 | 900万円 | 675万円 | 33万円 | 192万円 | 6.4万円 |
研修費40万円/人のケース(経費上限到達)
| 人数 | 研修費合計 | 経費助成(上限30万/人) | 賃金助成 | 実質負担額 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 1名 | 40万円 | 30万円 | 1.1万円 | 8.9万円 | 8.9万円 |
| 3名 | 120万円 | 90万円 | 3.3万円 | 26.7万円 | 8.9万円 |
| 5名 | 200万円 | 150万円 | 5.5万円 | 44.5万円 | 8.9万円 |
| 10名 | 400万円 | 300万円 | 11万円 | 89万円 | 8.9万円 |
| 20名 | 800万円 | 600万円 | 22万円 | 178万円 | 8.9万円 |
| 30名 | 1,200万円 | 900万円 | 33万円 | 267万円 | 8.9万円 |
研修費が40万円以上の場合、人数が増えても1人あたりの実質負担は8.9万円で固定されます。経費助成が上限に達しているため、規模によらず「約22%負担」の構造が保たれます。
研修費別 1人あたり実質負担額(Zoomライブ・中小企業・11時間)
★ 研修費40万円で経費助成の上限(30万円/人)に達する。それ以下では助成率75%がフル適用。
大企業の場合——助成率60%・上限20万円
人材開発支援助成金は中小企業向けと大企業向けで助成率・上限が異なります。ここでいう「中小企業」「大企業」の区分は厚労省の定義に基づきます。
中小企業の定義(助成金における)
| 業種 | 資本金または出資総額 | 常用労働者数 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業など | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業(飲食業除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業・飲食業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
上記のいずれかに該当すれば中小企業として扱われます(資本金・人数のどちらかを満たせば可)。名古屋・東海エリアのAI研修需要の多くを占める製造業・サービス業では、資本金3億円以下または従業員300人以下なら中小企業扱いです。
大企業と中小企業の助成額比較(研修費40万円・11時間・Zoomライブ)
| 区分 | 経費助成率 | 経費助成上限/人 | 賃金助成/時間 | 実質負担額(40万円) |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 30万円 | 1,000円 | 8.9万円(22.3%) |
| 大企業 | 60% | 20万円 | 500円 | 19.45万円(48.6%) |
大企業は助成率も上限も賃金助成も低く、同じ40万円の研修でも実質負担が約2.2倍になります。中小企業であることが確認できれば、まず中小企業向けの申請を進めてください。
大企業の研修費別シミュレーション(Zoomライブ・11時間・1名)
| 研修費/人 | 経費助成額 | 賃金助成額 | 実質負担額 | 実質負担率 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 6万円(60%) | 5,500円 | 3.45万円 | 34.5% |
| 20万円 | 12万円(60%) | 5,500円 | 7.45万円 | 37.3% |
| 30万円 | 18万円(60%) | 5,500円 | 11.45万円 | 38.2% |
| 33万円 | 19.8万円(60%)→上限20万円 | 5,500円 | 12.45万円 | 37.7% |
| 40万円 | 20万円(上限) | 5,500円 | 19.45万円 | 48.6% |
| 60万円 | 20万円(上限) | 5,500円 | 39.45万円 | 65.8% |
大企業では研修費33万円強で経費助成が上限(20万円)に達します。それ以降は負担率が急上昇するため、研修費の抑制と中小企業認定の確認が特に重要です。
時間数が長い研修の上限拡大(100時間・200時間以上)
人材開発支援助成金の経費助成上限は、訓練時間数によって3段階に設定されています。これはあまり知られていないポイントです。
これまで紹介してきたのは「10時間以上100時間未満」の区分ですが、長時間の研修・資格取得プログラムを活用する場合は上限がさらに拡大します。
| 訓練時間数 | 経費助成上限(中小) | 経費助成上限(大企業) |
|---|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 30万円/人 | 20万円/人 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円/人 | 25万円/人 |
| 200時間以上 | 50万円/人 | 30万円/人 |
長時間研修(100時間以上)のシミュレーション例
AI人材を本格的に育成するために半年間のプログラム(合計120時間)を実施する場合の試算:
| 研修費/人 | 訓練時間 | 経費助成上限 | 経費助成額 | 賃金助成額 | 実質負担額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 40万円 | 120時間 | 40万円/人 | 30万円(75%) | 12万円 | ▲2万円(実質ゼロ超) |
| 50万円 | 120時間 | 40万円/人 | 37.5万円(75%) | 12万円 | 0.5万円(1%) |
| 60万円 | 120時間 | 40万円/人 | 40万円(上限) | 12万円 | 8万円(13.3%) |
| 80万円 | 120時間 | 40万円/人 | 40万円(上限) | 12万円 | 28万円(35%) |
注目すべきは研修費50万円・120時間の行です。賃金助成(12万円)と経費助成(37.5万円)の合計が49.5万円となり、研修費をほぼ全額まかなえる計算になります。集中的なAI人材育成プログラムでは、時間数を100時間以上に設定することで実質コストを大幅に削減できる場合があります。
ただし、長時間研修を申請する場合は訓練計画の作成が複雑になります。申請前の計画届の内容・様式については、人材開発支援助成金 コース選択から申請完了まで完全ガイドを参照してください。
また、名古屋・愛知エリアでは人材開発支援助成金に加えて愛知県や名古屋市の補助金との組み合わせも可能です。詳しくは愛知県・名古屋市でAI研修に使える補助金ガイドをご覧ください。
まとめ:実質負担を最小化するための3つのポイント
この記事で解説したシミュレーションから、実質負担を最小化するポイントを3つに絞ります。
① Zoomライブ形式を選ぶ
研修費30万円以上のコースでは、eラーニングとZoomライブで助成額に大きな差が生まれます。令和8年4月改正でeラーニング上限が15万円に引き下げられたため、この差はさらに拡大しています。
② 研修費40万円/人以内に収める
中小企業のZoomライブ研修では、研修費40万円/人で経費助成の上限(30万円)に達します。40万円以下に収めると、実質負担率が一定(約22%)に保たれます。
③ 本格育成なら100時間以上の上限拡大を活用
100時間以上の研修では経費上限が40万円/人に拡大します。賃金助成との合計で、研修費の大半をまかなえるケースもあります。
助成金の制度的な仕組み・申請のステップ・コース選択の方法については、AI研修の助成金完全ガイド【令和8年4月改正対応】で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
※ 本記事の助成金情報は2026年4月時点の厚労省公式パンフレット・公募要領をもとに作成しています。助成率・上限額・賃金助成額は年度改正により変更されることがあります。申請前に必ず厚労省の公式サイトで最新情報をご確認ください。
よくある質問
研修費が30万円を超えた分は助成されないのですか?
経費助成の上限「30万円/人」は10〜100時間未満の研修の場合です。100〜200時間未満の研修なら上限は40万円/人、200時間以上なら50万円/人に拡大します。また賃金助成(1,000円/時間)は上限がないため、研修時間が長いほど賃金助成の額も増えます。
人数が増えると助成率は変わりますか?
助成率(75%)は人数によって変わりません。上限額は「1人あたり30万円」のため、研修費単価が40万円以上の場合、1名でも10名でも1人あたりの助成額は30万円が上限となります。10名以上でまとめて計画届を提出することもでき、手続きの効率化が図れます。
助成金を受け取るまでにかかる費用はありますか?
研修費用はいったん全額を企業が立て替え払いします。助成金は研修終了後に申請・審査を経て支給されるため、通常は研修終了から2〜6ヶ月後に入金されます。立替期間中の資金繰りについては、事前に計画しておくことをお勧めします。


